事業拡大や新規事業参入を目指す場合、市場の状況や自社の立ち位置を正確に把握することが大切です。その際に、市場の細分化・参入市場・自社の立ち位置を分析できる手法として、STP分析がよく活用されています。そこで、本記事ではSTP分析の概要や重要性、メリットから効果的な分析のポイントまで、事例を挙げながら解説していきます。
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STP分析とは
STP分析は、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の3つの頭文字から構成される、マーケティング戦略の立案に役立つフレームワークです。
新規事業に参入する際や市場の変化に対応しなければならない際、市場における自社の立ち位置を明確にしておく必要があります。市場における自社の立ち位置は、事業の方向性や収益性にも関わるものです。
そのため、どのような市場の変化があり、どの市場に参入し、市場内での自社の立ち位置はどこなのかを明確にしていかなければなりません。こういった場合に、市場の細分化から立ち位置の明確化までを効率的に進めるられるSTP分析が活用されています。
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STP分析のマーケティングにおける重要性
市場や顧客ニーズは常に変化し続けているため、変化に合わせた商品・サービスを売り出さなければなりません。しかし、市場や自社の立ち位置を分析しないままでは、戦略を実行したところで思ったような効果は得られないでしょう。
例えば、飲食店を経営していて、コロナによる外出自粛ムードがあるにもかかわらず、店舗でのキャンペーンを実施しても、店舗への来客数アップは期待できません。
外出自粛ムードがある場合、テイクアウト商品を開発したりデリバリーサービスを導入したりするなど、市場の変化から顧客ニーズを読み取り、トレンドに適した事業を展開する必要があります。
このように、効果的なマーケティング戦略を立案するには市場の変化を常に読み取ることが大切です。したがって、マーケティングにおいて市場の細分化から始めるSTP分析の重要性が高まっています。
STP分析の各項目とやり方
STP分析の「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」3つの項目と、それぞれの分析方法を解説します。
Segmentation|市場を細分化する
Segmentationでは、市場内に存在する共通のニーズを持つ顧客層をセグメント分けしていくため、「市場細分化」とも訳されます。セグメント分けを行ううえで、一般的に活用されている指標は以下の4つです。
- 人口統計的変数:年齢・性別・学歴・職歴・家族構成などの基本情報
- 地理的変数:国・地域・人口・気候・文化・宗教などの地理的要因
- 心理的変数:性格・価値観・ライフスタイル・購入動機などの心理的要因
- 行動変数:購買頻度・購買パターン・購買目的・使用用途などの行動に関する情報
上記で挙げた変数すべてを使う必要はなく、事業や商材によって活用する変数を見極めることが大切です。
例えば、ひげ剃りは女性が使うことは少ないため男性向けに開発・販売するでしょう。このとき、「性別」によるセグメント分けをしています。また、ひげ剃りを使用するのは高校生以上の世代と想定する際、「年齢」によるセグメント分けをしています。
このように、いくつかの指標を用いて顧客層をセグメント分けしていくことで、商品・サービスの方向性がみえてくるでしょう。
BtoB事業のように企業を相手にする場合は、主な指標として企業規模・業種・購買方針・購買意欲・受注量・緊急性などが挙げられます。
Targeting|ターゲットを決定する
Targetingでは、細分化した市場から、どの市場をターゲットとするのかを絞り込むプロセスです。自社の強みや特徴が活かせる市場や、企業イメージと合致するような市場を選定します。また、具体的なターゲティングの手法として3つのパターンが挙げられます。
手法 | 内容 |
無差別型マーケティング | 細分化した市場を無視して、すべての市場に同じ商品・サービスを供給する手法。大企業や食品メーカーに多い。 |
差別型マーケティング | 細分化した市場ごとに適した商品・サービスを供給する。複数の料金タイプがある事業や類似ジャンルの商材を提供する事業で採用されることが多く、幅広い企業で活用されている。 |
集中型マーケティング | 細分化した1つの市場もしくは一部の市場に絞って商品・サービスを供給する。高級ブランドやコアなファンを抱えている企業がよく採用している。 |
例えば、複数のアパレルブランドを展開するファーストリテイリングは、市場ごとにブランドコンセプトを変えています。代表的なブランドである「ユニクロ」と「GU」でも、ターゲットが異なることが分かります。
ユニクロは「LifeWear」をキャッチコピーとして、素材や機能性を重視した世代を問わない点が特徴です。それに対してGUは、若者世代を中心にトレンドを重視している特徴があります。
このように、顧客ニーズや年代によってセグメント分けされた市場ごとに、供給する商材を使い分けているため、差別型マーケティングを実施していることが分かるでしょう。
Positioning|市場内でのポジションを明確化する
Positioningでは、参入する市場内で自社にとってどの立ち位置が最適かを分析します。市場内での立ち位置を決定する際は、競合他社との比較が欠かせません。そのため、競合他社の強みや特徴・価格・機能・品質などの競合分析を行いましょう。
そして、自社が他社の差別化できる点は何か、優位性を確立するにはどうすればよいのかなどを明確にしていきます。
例えば、タスク管理ツールを提供する場合、価格と機能性という軸をもとに、競合他社を位置づけてみましょう。
上記の図で他社のみに注目すると、やや高価格で機能性に優れた特徴のものが多いことが分かります。ただ、機能性に優れている反面、使いやすさに欠けるというデメリットが考えられます。
そこではじめて、他社より機能性は劣るがシンプルで使いやすく、低価格で提供しているという自社の立ち位置が明確になりました。
このように、競合他社と自社を比較しながら、自社ならではのポジションを明確化していきましょう。
STP分析を行うメリット・効果
STP分析を実施することで得られるメリットや効果を紹介します。
顧客ニーズを把握できる
STP分析では、市場を細分化していくことから、市場内にどのような顧客ニーズが存在しているかを把握できます。
ひげ剃りの例でいうと、性別と年齢でセグメント分けした結果、高校生以上の男性という市場がみえてきました。ここでさらに、切れ味を求めるのか肌への優しさを求めるのかなどでセグメント分けすることで、異なるニーズを捉えることができるでしょう。
このように、市場の細分化を繰り返すことで、市場内の顧客ニーズを細かく把握することが可能です。
他社との競争を回避しやすい
STP分析では、市場内の自社の立ち位置を明確にするために、競合分析を行います。その際、市場内における競合他社の立ち位置を把握するため、「他社とは違う点で勝負しよう」と自社ならではのポジションを発見できます。
そのため、競合との競争を回避しやすいうえ、市場内での優位性確立にもつながるでしょう。
市場内において立ち位置が競合と被っている場合、価格競争に陥ったり、対抗する競合のシェアが大きければ太刀打ちできないリスクもあります。したがって、STP分析を行い、自社が市場で生き残ることのできる立ち位置を見つけることが大切です。
プロモーション戦略の立案に役立つ
効果的なプロモーションを行うためには、自社がアピールすべき強みや顧客に合わせた手法を見極めることが大切です。STP分析では、顧客ニーズの把握から自社のポジショニングまでを一貫して実施するため、プロモーション戦略の最適化につながるでしょう。
例えば、同じ加湿器でも高価格でスタイリッシュなデザインが特徴のものと、低価格で使いやすさと機能性を重視したものでは、立ち位置やアプローチ方法・狙うべきターゲット像などがまるで異なります。
スタイリッシュなデザインのものは、「少し高くてもインテリアとしてもオシャレな家電が欲しい」という顧客ニーズに合致しています。そのため、安さをアプローチしたところで顧客ニーズに適しておらず、もっと安く売り出している競合との競争には勝てません。
STP分析を行えば、顧客ニーズ・自社のポジション・ターゲット像が明確になったうえで、プロモーション戦略を立案できるため、最適かつ効果の期待できる戦略を作りあげられるでしょう。
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STP分析を効果的に行う3つのポイント
STP分析の効果を高めるために意識したい3つのポイントを紹介します。
分析の順番にこだわりすぎない
STP分析は、名前の通りS・T・Pの順番で分析を進めるのが基本です。しかし、プロセスを進めていくうちに、見落としていたセグメントを発見したり、より最適なターゲットが分かったりすることもあるでしょう。
こういった場合は、分析の順番にこだわりすぎることなく、一度前のプロセスに戻って分析を見直したり、必要に応じて分析し直してもかまいません。
また、STPの3つの項目は連動していることから、正確な情報整理ができていれば分析の順番がどうであれ分析結果に大きな差は生まれないでしょう。そのため、Segmentationから始めるのが難しいと感じたら、他2つの項目からはじめても問題ありません。
市場の大きさや成長率を確認する
STP分析では、市場のセグメント分けからはじめるため、そもそも市場の大きさがどの程度なのか成長性はあるのかという点は、意識しない限り考慮できないでしょう。
市場規模が小さければ収益性は期待できませんし、成長性のない市場で優位性を確立できたとしても、それは競合が市場から撤退していることが理由かもしれません。
このように、参入する市場の規模や成長率は、企業の将来性にかかわる問題です。したがって、STP分析をはじめる前に、市場規模や市場の成長率を確認することが大切です。
STP分析以外のフレームワークも活用する
STP分析では、市場・ターゲット・ポジションを軸として分析を進めていくわけですが、各分析を行う際にSTP分析以外のフレームワークも活用することが大切です。
市場の分析には社会的な変化から市場の動きを把握する「PEST分析」、ターゲティングには市場・競合・自社3つの視点から市場を決定する「3C分析」、ポジショニングには市場内の競合や自社の立ち位置を図式化した「ポジショニングマップ」などが活用できます。
分析のやり方に迷ったら、各分析に適したフレームワークを活用しながら、情報を整理していきましょう。下記の記事にて、マーケティングで有効活用できるフレームワークを紹介しています↓↓
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STP分析とは?まとめ
STP分析を活用することで、事業拡大や新規事業参入などの戦略を効率的に立てられるでしょう。市場の状況や自社の現状を把握するには多くの情報をもとに分析を行わなければなりません。そのため、STP分析をはじめとするフレームワークを活用し、正しく情報を整理していきましょう。