中小企業や新規プロジェクトでは、限られた予算を最大限に有効活用し、より大きな成果を上げることが求められます。そんなとき重要になってくるのが、マーケティング予算の管理と投資対効果(ROI)です。
本記事では、限られた予算内で効果的なマーケティング活動を行うために重要なROIや、マーケティング予算管理のポイントについて解説していきます。
ROI(投資対効果)とは?
ROIとは「Return on Investment」の頭文字を取った用語です。投資した金額に対してどれだけの収益が生まれたかを示す比率のことで、一般的には「コストパフォーマンス」という言葉のほうが馴染みがあるかもしれません。
導入したITツールを検討するときや、実施した施策の効果を検証するときなどに用いられるもので、ROIが高いほど収益性や投下した資本に対する効果が高いことを示します。
なぜROIが大切なのか
ROIは、導入したツールや成果がでるまでの期間、採用したフローなどの効果を客観的に判断しやすくするのに有効です。
チームの責任者や上司から「どのくらい効果がでたの?」と指摘されたときに、はっきりと根拠を示す、新しいツールの導入を検討するといったときの参考にもなります。
マーケティング分野では、ツールの多様化やプロセスの複雑化、期間の長期化などによって、採用した施策がどのくらい効果があったのかが分かりにくくなってきています。明確な効果が出たとはいえない事業や施策に資本を投下し続けることは、企業にとって不利益しかありません。
「限られた予算で、より高いパフォーマンスを発揮したい」や「低予算でも成果を上げられるツールや施策を検討したい」といった場合に、ROIはとても有効な指標です。
ROIの算出方法
ROIは、以下の計算式で算出されます。
ROI(%) = 利益 ÷ 投資額 × 100
しっかりと役立つROIを算出するためには、どの数値が「利益」で、どこまでを「投資額」に含めるのかが重要です。
マーケティングにおけるROIの計算式
マーケティングにおけるROIを算出する場合は、「投資額」のところに、採用した施策やマーケティングツールなどを当てはめることで計算できます。
自社の製品と売上高、マーケティング投資額を例に見ていきましょう。
マーケティング投資額 | 100万円 |
製品価格 | 500円/1個あたり |
製品原価 | 100円/1個あたり |
販売数 | 7000個 |
売上高 | 350万円 |
販管費(その他経費) | 30万円 |
この場合のマーケティングROIは、次のように計算できます。
ROI:【350万円 −(70万円 + 30万円 + 100万円)】÷ 100万円 × 100 = 150%
ROIは150と算出されました。ROIは数値が高いほど効果的とされるため、150からさらに上げるにはどうしたらいいのかを考えることが課題となります。
ROIは0が損益分岐点となるため、0を下回らないことを基準にして考えると良いでしょう。
ROAS(ロアース)とROIの違い
ROIとよく間違われやすい指標として、ROASがあります。ROASは主にWeb広告における費用対効果を表す指標として以下のような計算指摘で算出されます。
ROAS=売上額÷コスト×100(%)
ROASに関する詳しい解説は、以下の記事でしているので興味がある方はあわせて読んでいただければ幸いです↓↓
マーケティング施策別でみるROI例
ここからは、良くあるマーケティング施策を例に、それぞれのROIを見ていきましょう。各施策例のどこが「投資ポイント」で、どんな「利益」や「効果」があったのかを把握しておくことが大切です。
イベント
イベントがきっかけで獲得した見込み客の数や売上が「利益・効果」です。物品の制作費や出店料、ブース設置費、当日の人件費などが「投資額」となります。
メール配信
配信メール経由で発生した問い合わせ数や売上が「利益・効果」です。メール配信で使用したツールの費用やメール制作費、人件費などが「投資額」といえます。
動画配信やSNS
動画配信やSNSも同様です。発生した問い合わせ数や売上、シェアされた数、フォロワー数の増加率などが「利益・効果」、コンテンツ制作費や人件費、制作用ツールなどが「投資額」となります。
明確な利益は計算しやすいですが、「効果」も含まれている点がポイントです。どんなことが自社や担当プロジェクトにとって「有益だった」といえるのか、しっかりと認識することも大切になってきます。
ROIを最大化するには?
ここからは、具体的に「どうやったらROIを最大化できるか?」について考えていきましょう。前述したように、ROIは「利益」のほかに「効果」も含まれるため、どんな施策やツールが有益なものかを判断するのが、年々難しくなってきています。
利益と投資額の定期的な見直しが大切
獲得した利益や効果と投資した額を定期的に見直しましょう。ROIを高めるためには、各数値が構成する要素をできるだけ細分化し、どの数字がボトルネックで、どの数字が投資効果が高いのかを具体的に把握することが大切です。
自社や競合、市場全体の状況と照らし合わせてみると、製品価格や目標販売数の設定に無理があるのかもしれません。管理や流通方法には、もっと効率の良い方法が見つかることもあります。
マーケティング費用だけでなく、ほかの項目も含めた全体をよく観察することがポイントです。
ROIの分析とモニタリング方法
また、単純な利益と投資の比率だけでなく、顧客単価やリード獲得単価といった、他の指標と組み合わせて総合的に分析する力も重要です。
特定の施策やキャンペーンがどれだけの価値(効果)を生み出しているかを客観的に評価することが可能となるため、予算を含めた戦略の練り直しなどにも、客観的な根拠が得られます。
たとえば、「ROAS(Return on Advertising Spend)」は、広告費用対効果を測定するための指標で、計算式は以下のようになります。
ROAS = 広告によって得られた売上 ÷ 広告費用 × 100
「CPA(Cost Per Action)」は、1つの売上までにかかった広告費用(顧客獲得単価)を把握するための指標で、計算式は、以下のようになります。
CPA = 広告費用 ÷ 獲得売上数 × 100
他にも、CAC(顧客獲得コスト)やCLV(顧客生涯価値)といった指標を使って、さまざまな側面からモニタリングすることが大切です。
効果的なマーケティング予算の算出方法
ここからは、マーケティング予算の算出方法について見ていきましょう。ROIを最大化するためには、予算の割り振りが重要になります。
マーケティングにも予算は必須
マーケティング予算とは、企業が広告、プロモーション、イベントなどのマーケティング活動に充てるための資金です。企業の規模や業種、プロジェクトの種類によって異なりますが、適切な予算を計画することが、戦略的かつ効果的なマーケティングの実現に繋がります。
冒頭でも述べたように、マーケティングは、ツールやプロセスの複雑化、期間の長期化といった影響もあり、効果を測定しにくい分野です。少ない予算で大きな成果を上げるときもあれば、まったく売上に繋がらなかったという場合もよくあります。
マーケティング予算は、プロジェクトの成功や最終的な自社の利益に大きく影響するものです。
KGI(最終目標)やKPI(中間目標)を策定
マーケティング予算の計画には、具体的な目標設定が重要です。KGI(最終目標)やKPI(中間目標)を設定し目標を明確化しましょう。
たとえば、「年間売上1000万円」というKGIを設定した場合、どんなKPIを設定すれば、その目標を達成できるでしょうか。具体的な目標を設定することで、予算の優先順位が明確化され、戦略の方向性なども定めやすくなります。
必要な施策や課題を洗い出す
設定した予算でより大きな成果を上げるために、マーケティング施策を検討し、それぞれの課題を洗い出しておきましょう。市場調査や競合分析、過去の実績の検証なども含め、各施策の課題やリスクを事前に把握することで、最適な予算配分やリスクヘッジが可能となります。
マーケティング施策ごとのリード獲得単価を計算する
マーケティングの成果を評価するためには、リード獲得単価を計算することが重要です。リード獲得単価は、特定のマーケティング施策において1つのリードを獲得するためにかかるコストを示すものです。
施策ごとに算出することで、どの施策が効果的であるかを客観的に評価しやすくなるため、「新規リードを得るための施策」や「既存リード育成のための施策」など、目標に合ったマーケティング戦略を検討しやすくなります。経営層やチームメンバーに対し、予算配分の意図を共有しやすくなるという点もポイントです。
1顧客当たりの売上・利益を計算
リード数だけでなく、1顧客当たりの売上や利益を計算することも重要です。マーケティングは、集客だけでなく、最終的な売上に貢献する顧客の獲得も戦略に組み込まなければなりません。
1顧客あたりで発生する利益は「LTV(Life Time Value)」といいます。1顧客が生涯で、サービスや商品購入に使用した額を示しており、LTVが高いほど「自社製品・サービスをより長く、より多く購入してくれた」ということです。
計算式はサービスや商品によって異なりますが、たとえばつぎのようになります。
1顧客あたりの収益率 × 年間取引数 × 継続購買年数
マーケティングに応用する場合は、各施策ごとのLTVを算出できると良いでしょう。施策ごとの収益率が明確になるため、課題の洗い出しや優先度付けに役立ちます。
予算配分を決める
最後に予算配分を決定します。限られた予算の中で最大の成果を上げることがマーケティング戦略にとって重要です。
リード獲得単価や1顧客当たりの売上を考慮しながら、場合によってはあまり効果が出ていない施策を中断したり、より効果が高い施策に予算を振り分け直したりなど、柔軟な調整が可能な体制を整えていきましょう。
マーケティング予算管理時の注意点
ここからは、マーケティング予算管理において重要なことや注意点を見ていきます。以下のポイントを押さえながら、予算を効果的に管理することが重要です。
過去の実施データや競合分析を行う
過去の実施データや競合分析を行い、マーケティング予算の設定に活かしましょう。成功した施策や失敗した取り組みを把握し、今後のマーケティング戦略を立てたり、競合他社がまだ手掛けていない施策のアイデアが見えてくるかもしれません。
内部と外部を同時に分析することで、より精度の高い予算管理が可能となります。
優先度と重要度を決め施策を広げすぎない
ものごとを決定するときは、優先度と重要度というふたつの観点から判断することが大切です。優先的かつ重要な施策に焦点を当て、効果的な予算の配分を行うことで、限られた資源を最大限に活かすことを目指しましょう。
柔軟性を持たせる
マーケティング環境は、つねに変化しています。顧客のニーズや市場のトレンドの変化に敏感に反応し、柔軟に予算配分できる体制が重要です。顧客や市場、マーケティング施策のフェーズに合わせて適切に調整できる仕組みを整えましょう。
将来につながる施策にも投資する
マーケティング戦略は、即効性のある施策だけでなく、将来の長期的な成果につながる投資も考慮することが重要です。ブランド力の構築や持続可能な顧客関係の構築など、将来の成長を見据えた長期的な投資を検討することで、企業やプロジェクトの持続的な成長が期待できます。
バッファを持たせておく
予測不可能な状況や急激な変化に備えて、予算には適切なバッファを持たせておくことも大切です。優先度や重要度といった観点から、各マーケティング施策をつねに見直し、柔軟なリソースの確保を目指しましょう。不測の事態に迅速に対応することで、被害を最小限に抑えることにもつながります。
予算策定とROIをセットで考えることが大切
「マーケティング予算の管理とROIの最大化」をテーマに解説しました。
マーケティング予算計画は、期待されるROIをつねに考慮することが大切です。どれだけの効果をもたらすかを見極めずに、予算を単独で設定することは、プロジェクトの失敗や大きな損益につながる恐れもあります。
予算とROIは相互に関連するため、セットで考えることが重要です。バランスを取り、計画的な予算策定とROIを検討し、より効果的なマーケティング戦略の展開を目指しましょう。