顧客の理解を深めてマーケティングに活かすために「カスタマージャーニー」を活用を検討している企業も多いのではないでしょうか。しかし、顧客の思考や行動を深く考える際のポイントを適切に理解していなければ、見当違いなカスタマージャーニーを作成してしまう恐れがあります。
そこで本記事では、カスタマージャーニーとはどういったものなのか、基本的な概要や活用事例、マップの具体的な作り方までを一挙に解説します。記事の最後には大手有名企業の実例も紹介しているので、ぜひ一緒に、カスタマージャーニーについて学んでいきましょう!
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カスタマージャーニーとは?
「カスタマージャーニー」とは、顧客が製品やサービスを購入するまでのプロセスを理解するための方法論、またはツールです。顧客の視点から見た体験を追跡し、自社製品に関与する段階やニーズ、痛点、感情などを考察するほか、製品利用後の継続や再購入の意思決定といった領域まで踏み込んでいきます。顧客がたどる一連の流れを「旅」に例えたことから、カスタマー(顧客)ジャーニー(旅)という名で呼ばれるようになりました。
現代マーケティング理論の権威であるフィリップ・コトラーによる著書「マーケティング4.0」内で提唱された「5Aカスタマージャーニー」が、最新の方法論として支持されています。同書では、スマホやタブレットのようなモバイル端末やSNSが普及したことによる市場の変化に着目し、中でも「継続性」に重点を置いています。
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「5A」で構成されるカスタマージャーニー
「5Aカスタマージャーニー」は、つぎの5つの要素で構成されています。
- Awareness(認知):顧客が製品やサービスの存在を認識する段階。マーケティング活動や広告を通じて、顧客の関心を引くことが目標
- Appeal(魅力・訴求):顧客が興味を持ち、関与しようとする段階。製品やサービスの魅力を強調し、顧客の関心を引き続けることが重要
- Ask(調査):顧客が情報を収集し、質問や疑問を持つ段階。顧客が求める情報を提供し、疑問や不安を解消することが必要
- Act(行動):顧客が購入や契約を行う段階。購入プロセスを簡素化し、スムーズな体験を提供することが重要
- Advocate(支持・推奨):顧客が満足し、製品やサービスを積極的に支持する段階。口コミや推薦を通じて、他の人に製品やサービスを勧めることが期待される
5Aカスタマージャーニーは、顧客の体験を各段階ごとに整理し、各フェーズでのニーズや行動を理解するツールです。また、従来までの「4Aカスタマージャーニー」と大きく異なるのが5つめの「Advocate(支持・推奨)」が追加されている点でしょう。SNSや口コミサイト、ECサイトのレビューなどで、つねにユーザーからの評価を目にする昨今、「Advocate(支持・推奨)」を達成することがいかに重要なのかが、5Aカスタマージャーニーからもわかります。
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カスタマージャーニーのメリットと活用方法
カスタマージャーニーの作り方を解説する前に、もう少し詳し理解していきましょう。本記事では、カスタマージャーニーのメリットや活用方法として、つぎの4つの例を用意しました。
- 顧客理解の向上
- 顧客とのコミュニケーションの円滑化
- パーソナライズされた顧客体験の提供
- 自社のブランド価値向上
順番に紹介します。
顧客理解の向上
カスタマージャーニーを用いることで、顧客のニーズ、痛点、感情などを深く理解することに役立ちます。マーケティング戦略の立案はもちろん、製品やサービスそのものの設計や開発にも大きく影響する項目です。
カスタマージャーニーを考察する段階では、社内の商品開発や広告・宣伝、営業、店頭スタッフといった自社製品と顧客に関係するさまざまな事柄を議論しなければなりません。こうして生まれた共通認識は、顧客やチームメンバー間の相互理解や意思疎通の円滑化にも役立ってくれます。
顧客とのコミュニケーションの円滑化
マーケティング戦略の立案は、「どんな段階の顧客が、どんな課題を持ち、解決策を求めているか」を明確にしなければなりません。カスタマージャーニーを用いて顧客を知るためには、「コミュニケーション」が不可欠となります。
例えば「顧客がどんな心理状態にあるか」「そのターゲットを動かすにはどんなコンテンツや情報を提供すべきか」や、「そういった顧客とのコミュニケーションを実現するためには、どんな方法を用いるべきか」といったコミュニケーション設計が市場とズレていては、顧客が求める的確な製品を提供することはできません。カスタマージャーニーを作成することで、より正確なコミュニケーション設計が可能となり、「顧客関与の最適化」を図ることも可能となります。
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パーソナライズされた顧客体験の提供
カスタマージャーニーを活用することで、顧客がどのような体験を求めているかをより詳細に把握することが可能となります。顧客が持つ悩みや課題、解決策を提供するだけでなく、パーソナライズされた製品やサービスの提供は、顧客満足度の向上が期待され、長期的な関係の構築にも繋がるでしょう。
自社のブランド価値向上
顧客視点に立った製品やサービスの開発を行うことで、顧客との関係性や信頼度の向上が期待できます。カスタマージャーニーの効果を最大限に活用することで、良質な体験や顧客満足度を向上させることで、ブランドが好きで離れないリピーターや、口コミで自社製品をさらに広めてくれる「ブランドパートナー」を生み出す可能性も高まるでしょう。
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カスタマージャーニーの作り方
ここからは、具体的にカスタマージャーニーの作り方を解説します。カスタマージャーニーは、ターゲット(顧客)が製品購入やサービス利用に至るまでのプロセスを段階に分けて分析し、マップ(表)にまとめて作成するため、「カスタマージャーニーマップ」と表現することも多いです。
ゴールの設定
しっかりと意味を持つカスタマージャーニーマップを作るためには、ゴールの設定が重要です。ゴールとは「達成したい状態」や「目的」ともいえます。
ビジネスによっては、売上ではなく「SNSのフォロワーを増やす」や「Webサイトのアクセスを増やす」「次回製品用のアンケートを作成する」かもしれません。また、「1回の購入で終わってしまう顧客をリピーターにする」といったゴールでも良いでしょう。
ゴールの設定は、カスタマージャーニーマップの大枠を決める大切な作業です。逆にいえば、さまざまな「達成したい状態」や「目的」によって、柔軟に対応できるのが、カスタマージャーニーの利点でもあります。
ユーザー像の設定
ステップが進むに従って、より具体的な作業に移っていきます。つぎは「ユーザー像の設定」を行っていきましょう。ビジネスにはターゲットとなる顧客が存在します。まだ見ぬ新しい製品を開発する場合もあれば、すでにある程度の市場が出来上がっているケースもあるのではないでしょうか。
ユーザー像の設定でおすすめなのは「ペルソナ」を使った方法です。ペルソナとは、「人格」という意味で、年齢や性別、生活エリアといった「基本属性」と、趣味や悩み事、よく使うデバイスといった「行動属性」から成ります。
ターゲットとなる顧客像を、特定の個人かのようなレベルまで落とし込み、どんな人物に対しての施策なのかをより明確にするのがコツです。漫画や小説の登場人物のように、細かなところまで設定していくことで、ターゲットのさまざまな側面がイメージしやすくなります。
テンプレートの作成
つぎのステップは、カスタマージャーニーで使うテンプレートの作成です。カスタマージャーニーは、横軸に冒頭で紹介した顧客の「5A」の行動段階を。縦軸に「行動」「接点」「思考」「課題感」といった顧客の態度や自社がとるべき「対応策」を並べた2軸の表で展開します。
これまで解説してきたように、「ゴール」や「顧客像」が明確になっていなければ、マップを埋めることはできません。この段階では、あくまでテンプレートを作成したに過ぎないことに注意しましょう。
マップ(表)を埋めていく
ここまでの手順を振り返りながら、マップを埋めていく作業です。「ゴール」「顧客像」をもとに、顧客の行動と各フェーズでのリアクション、自社とのタッチポイントを洗い出し、それぞれのマスを埋めていきます。顧客の感情から考え、課題感などが時間軸で移り変わっていくのが可視化され、ゴールにたどり着く感覚を掴んでください。
顧客像はひとつではありません。ペルソナを設定し直し、新しいマップを作成することもできます。場合によっては、テンプレートを複数用意することもあるでしょう。作成にあたって、事前にユーザーについての定量・定性調査を実施するのもよい方法です。また、カスタマージャーニーマップは、ユーザーの行動サイクルの一部に過ぎません。マップ通りに行動しないこともあれば、想定外のステップが生まれたり、ステップを飛ばしたりすることも多々あります。さまざまな事態を想定しながら、柔軟に対応していきましょう。
カスタマージャーニーの活用事例
有名企業をヒントに、カスタマージャーニーの具体的な活用事例を紹介します。今回は「スターバックスコーヒー」「LEGO」「IKEA」の3社です。
スターバックスコーヒーの事例
コーヒーチェーン大手・スターバックスコーヒーの事例です。デザイン会社Little Springs Design社のデザイナーによるものとされています。内容は顧客の来店前〜退店までの様子をカスタマージャーニーに書き起こしたものです。
Enriched Experience(満足度を高める体験)とPoached Experience(満足度を阻害する体験)が上下のラインで区分けされ、それぞれにどんな要素があるのかが整理されています。
LEGOの事例
デンマークの玩具会社LEGOのカスタマージャーニーマップです。同社のオウンドメディア活用のために書き起こしたものとされています。縦横の表ではなく円形になっている点が特徴的で、利用者がロンドンからニューヨークへ向かう飛行機内における体験前(Before)・体験中(During)・体験後(After)それぞれの感情の変化が整理されています。
飛行機による移動で顧客にどのような感情の変化があり、その中でどうやってLEGOへのエンゲージメントを高めるかが考察されています。
IKEAの事例
スウェーデン発祥の家具メーカー・IKEAのカスタマージャーニーマップです。店舗来店前後(OUT OF STORE)・来店中(IN STORE)・オンラインサイト閲覧という3つのタッチポイントで顧客の心理や行動を予測しています。店舗をどのようにナビゲートするかを、スタッフがより深く理解するための考察がまとめられています。
カスタマージャーニーが古いと言われる理由
ここまでの解説を読んで、カスタマージャーニーが「少し時代に合わないかも」と感じた人もいるかもしれません。カスタマージャーニーは2000年〜2010年代に波及した手法ということもあり、近年では「古い」とされる風潮もあります。
なぜ、カスタマージャーニーが古いといわれるのか、3つの観点から紹介します。
情報媒体の変化
ネットやSNSが普及する前の方法論であったことから、ひとり1台スマホを所持し、さまざまなメディアが普及した現代には合わないのではないか、といった意見です。
顧客が「決定・購入」や、その後の「共有・拡散」フェーズに至るまでのプロセスも多種多様でスピードも比べ物になりません。カスタマージャーニーのような、一方的で断定的な手法では、複雑化した顧客の行動予測やゴール設定にズレが生じたり、スピードに追いつけない可能性もあります。
パルス型消費へのシフト
現代人は「1日中いつでも買い物をするタイミングが発生し得る状態」であり、その日はじめて知った商品でも、認知と同時に購入まで進むことが可能です。これを「パルス型消費」と呼びます。
従来のカスタマージャーニーは、「顧客は認知し、情報を集め、比較検討してから購入する」という消費行動を前提に設計されています。パルス型消費に需要がシフトしていると仮定した場合、これまでのカスタマージャーニーの考え方のままでは、思うような効果を得られないという意見です。
新規顧客獲得がメインになっている
カスタマージャーニーは、顧客が自社商品やサービスの購入を決定するまでのプロセスをまとめるものでした。いわゆる「新規顧客獲得」をメインに設計された方法論であり、新たに顧客となったユーザーのアフターケアやリピート頻度、離脱といった行動の分析は苦手とする意見もあります。
カスタマージャーニーを活用して顧客体験を向上させよう
カスタマージャーニーを活用して顧客体験を向上させるためには、顧客のニーズや悩みを理解し、各フェーズでしっかりと期待に応えることが重要です。とくに5Aの5つ目にあたる「Advocate(支持・推奨)」は、グロースハックといった個別の方法論として展開されるほど重要視されており、顧客の満足度向上や長期的な関係性の構築に大きく影響します。時代の変化に合わせてカスタマージャーニーの基本設計も変化させ、柔軟に対応していくことが大切です。