近年、「ブランディング」はビジネスシーンにおいてよく使われるようになりました。他社との差別化や企業価値の向上を目指すには、このブランディングが欠かせません。そこで、本記事ではブランディングの概要をはじめ、得られる効果や実施手順など、詳しく解説していきます。
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ブランディングとは
ブランディングとは、独自のブランドを構築し、他社商品・サービスとの差別化や企業価値の向上を目指すマーケティング戦略のひとつです。
ブランドを顧客や消費者に認知してもらい、「この商品は○○社ならではのものだ」と浸透させていくための取り組みすべてがブランディング(またはブランドアイデンティティ)といえます。ブランドを表現する方法としては、以下のように様々な要素が挙げられます。
- 名称や商標
- ロゴ
- デザイン
- キャッチフレーズ
ブランディングの必要性
ブランディングをおこなうことで、マーケティング活動を有利に進めることができます。
商品・サービスを顧客や消費者に届けるには、広告出稿や販促などの集客活動が必要です。しかし、集客するためには莫大なコストがかかり、効果も長期的ではありません。
ただ、ブランディングに成功すれば、集客をおこなわずとも「○○(商品)といえばA社」と顧客や消費者を獲得できます。もちろん、集客活動とブランディングを両立して取り組むことが重要ですが、ブランディングによって集客にかかるコストを削減でき、コスト削減により浮いた予算を開発費など別の部分に充てられるようになるのです。
このように、ブランディングに関わる取り組み自体が広告のような役割を果たすため、企業においてブランディングの必要性が高まっているといえます。
ブランディング=高級品は大きな間違い!
「ブランディング=高級品」だと思っている方も多いと思いますが、それは大きな間違いです。例えば100円でコストパフォーマンス良く商品が購入できる100円ショップのDAISOや、ちょっと良い雑貨アイテムが300円で手に入る3COINSなどもブランディングの成功例と言えるでしょう。
ブランディングは「○○といえば△△!」といったように、ブランドが想起できるように戦略を練ることを指します。商品の価格の高い安いでブランディングが必要かどうか判断することはありません。むしろ低価格でも高品質な事を売りにするようなブランド戦略を取っている企業も多いのが実情です。
アウターブランディングとインナーブランディングの2種類について
ブランディングには「アウターブランディング」と「インナーブランディング」の2種類の方法があり、この2つは「誰に対しておこなうのか」という対象が異なります。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
アウターブランディング|顧客や消費者に向けておこなう
アウターブランディングとは、企業が顧客や消費者といった社外に向けておこなうブランディングのことです。基本的にブランディングは、ほとんどの場合アウターブランディングを指しています。
アウターブランディングでは、顧客や消費者に商品・サービスまたは企業そのものに対して、よいイメージを持ってもらうために様々な取り組みをおこないます。
そして、ブランディングの対象が顧客や消費者であることから、収益にも大きく関わる取り組みとなってくるでしょう。
インナーブランディング|社内の従業員に向けておこなう
インナーブランディングとは、企業が社内の従業員に向けておこなうブランディングのことです。「インターナルブランディング」とも呼ばれています。
従業員全員が企業理念やブランド価値を理解し、社内での認識を統一することが目的です。インナーブランディングに成功すれば、企業の考え方に沿った行動が増えるため、企業活動が安定するうえ、社内全体でアウターブランディングに取り組むこともできるでしょう。
ブランディングで得られる5つの効果とメリット
ブランディングを実施することで得られる効果・メリットを5つご紹介します。
価格競争から抜け出せる
ブランディングによって商品・サービスに独自の価値がつけば、「この商品なら○○」と価格競争に陥ることなく、顧客や消費者から選ばれやすくなります。そのため、他社より高い価格でも勝負できるでしょう。
モノやサービスが溢れるこの時代では、顧客・消費者に選ばれるために、価格競争が激化しています。同じ価値を持つ商品・サービスであれば、価格の低いものを選びたいというのが一般的な顧客・消費者の考え方です。
そして、価格競争で勝ち残るためには、他社より価格を低く設定しなければならず、いずれ限界を迎えることとなるでしょう。
このように、ブランディングをおこなうことで、価格競争を回避または脱することができるのです。
利益率が高まる
企業や自社商品・サービスにブランド価値がつけば、他社より高い価格でも売れるようになるため、利益率が高まります。
ブランド価値が高まれば、顧客・消費者の離脱を防ぎ、リピート率の向上も期待できるでしょう。新規顧客の獲得にはコストがかかり難しいといわれているため、既存顧客を離脱させないという戦略が重要なのです。
新規市場へ参入しやすい
構築したブランドを軸として、新規市場への参入や開拓がしやすいといえます。ブランドのファンである顧客・消費者が、新たな商品・サービスにも興味を持ってくれる可能性が高いためです。
新規市場参入にはコストがかかるうえ、リスクもあります。しかし、既存事業においてブランディングによる顧客・消費者を獲得できていれば、安定した収益が見込めることから、ブランディングが新規市場参入時のリスクヘッジともなり得るのです。
また、新規市場にはネームバリューのない企業として参入するより、既存事業でブランディングに成功している企業のほうが、新規市場参入で失敗しにくいといえます。
コストを削減できる
ブランディングによって新規顧客獲得や販促などにかかる、あらゆるコストを削減可能です。
新規顧客を獲得するためにかかるコストは、既存顧客に販売するコストのおおよそ5倍といわれています。そこで、ブランド価値を高め既存顧客の離脱を防止できれば、新規顧客を獲得するときほどコストをかけずに済むでしょう。
また、ブランドが認知されれば、企業や商品・サービスの指名買いが増えます。そのため、販促にかかるコストを抑えられるのです。
販促にもコストをかけ、ブランディングによって利益をさらに増やすという戦略も考えられます。自社に適した方法を選択するとよいでしょう。
人材確保につながる
企業活動をするうえで人材確保は欠かせません。少子高齢化によって労働人口が減少していることもあり、人材確保の重要性は高まりつつあります。
企業ブランドを構築し社内で共有できれば、従業員は企業理念や方向性など企業のことを深く理解できるでしょう。そうすることで、企業の考え方に沿った行動や戦略を立てられる優秀な人材へと成長する可能性があるのです。
また、人材は社内で育成するだけでなく、優秀な人材を外部から獲得することも重要です。ブランド価値が高まれば認知度が高まるほか、企業イメージが向上し、企業に対してよい印象を抱く人も増えます。
このように、ブランディングをおこなうことは、ブランド価値に共感する優秀な人材を集めることにもつながっているのです。
【4STEP】ブランディングを行う手順
では、実際にブランディングをおこなう際の手順を4STEPで解説します。
STEP1:環境分析をおこなう
まずは、自社を取り巻く様々な要素から、現状を把握しましょう。業界構造・市場分析・顧客や消費者のニーズ・自社の強みや弱みなどから、環境分析をおこないます。
環境分析をおこなう際には、フレームワークの活用がおすすめです。環境分析に適したフレームワークを以下の表にまとめました。
名称 | 構成要素 | 特徴 |
PEST分析 | 政治(Politics)経済(Economy)社会(Society)技術(Technology) | 市場や業界だけでなく社会・経済など、世の中の流れといった外部環境までを分析する。 |
3C分析 | 市場・顧客(Customer)自社(Company)競合(Competitor) | ビジネスにおける成功要因を3つの要素から分析する。 |
SWOT分析 | 強み(Strengths)弱み(Weaknesses)機会(Opportunities)脅威(Threats) | 内部環境と外部環境を、プラス要因とマイナス要因に分類し分析する。 |
関連記事:マーケティングで活用すべきフレームワーク12選!使い分けや実行方法まで解説します!
STEP2:ブランドコンセプトを設定する
次に、ブランドコンセプトを設定します。ブランドコンセプトは以下のような視点から検討するとよいでしょう。
- 誰をターゲットにするのか
- どのようなイメージを持ってもらいたいのか
- 他社と差別化するにはどうしたらよいか
- 提供したい価値は何なのか
ブランドコンセプトは、より具体的かつ明確に設定することが大切です。また、ブランドコンセプトを設定する際、自社の強みを言語化するよう意識しましょう。強みを伸ばすことが、他社にはないブランド価値となる可能性があるためです。
STEP3:戦略を具体化する
そして、ブランドコンセプトを形にしながら、どのように発信していくのかといった戦略を具体化しましょう。「どうすれば顧客・消費者に届きやすいか」という視点で検討するとよいでしょう。
ただ、ターゲットによって効果のあるアプローチ方法は異なります。例えば、10代~20代をターゲットとする場合、日頃利用される機会が多いSNSを通じて情報発信するというように、ターゲットに情報が届きやすい方法を見極めましょう。
そして、ブランドを視覚的に表現するロゴやデザインも、ブランドコンセプトに沿って制作し、伝えたいイメージに統一することが重要です。
関連記事:ブランディング戦略とは?戦略の立て方と成功させるポイント【成功事例5つ】
STEP4:対象に向けて発信する
最後に、戦略に沿って情報を発信しましょう。
そして、情報を発信して終わるのではなく、継続的に効果測定をおこなうことが重要です。認知度は向上したのか、ブランドに対するイメージはどう変わったのかなどを調査します。測定方法には、アンケート調査やWebサイトのアクセス解析といった方法が挙げられます。
ただ、情報を発信しても認知度が向上していなかったり、予測していない方向性のイメージを持たれたりすることもあるでしょう。そのため、効果測定をおこなうごとに課題点を見つけ出し、改善し続けることが大切です。
ブランディングを成功させる4つのコツ
ブランディングを成功させるには4つのコツがあります。ブランディングを実施する際は、ぜひ参考にしてください。
ターゲットを明確にする
ブランディングのターゲットは明確に設定することが重要です。商品・サービスを誰に購入して欲しいのかという視点から検討するとよいでしょう。
ターゲットによって、ブランドが表現するロゴやデザインの方向性は異なります。そのため、ターゲットが明確になっていないと、どのような方向性でブランドを表現すればよいのか分からないといった事態になりかねません。
ターゲットを設定する際はペルソナ設定を用いるなどして、より具体的なターゲットを想定し、ブランドを形にしていきましょう。
長期的な計画を立てる
ブランディングは短期間で結果が出るものではないため、長期的な計画を立てることが大切です。ブランディングが数年かかることは普通で、場合によっては10年以上かかることもあります。
短期間で結果を求めてしまうと、ブランディングに取り組んで間もないにもかかわらず、「効果がない」とブランドコンセプトの変更を繰り返してしまい、イメージが定着せず、いつまでたっても認知度が向上しないというリスクも考えられるのです。
このように、ブランディングは長期的な目線で検討することで、着実に結果へとつながっていくでしょう。
関連記事:ブランドを育成する方法とは?ブランディングの基礎やメリットも
客観的に自社の強みを把握する
ブランディングでは、自社の強みを伸ばし、ブランド化していくことが重要です。ただ、自社の強みは、客観的視点で分析しなければなりません。なぜなら、社内で挙げられる強みと顧客・消費者が挙げる強みは必ずしも一致するわけでないためです。
ブランディングは基本的に顧客・消費者へ向けておこないます。顧客目線、消費者目線で企業のよい部分を洗い出し、強みとしてブランド化していきましょう。
確立したブランドとは異なるコンセプトにする
ブランディングする商品・サービス市場に、既に確立されたブランドがある場合、同じコンセプトで対抗するのは困難です。そのため、確立されたブランドとは異なるコンセプトで勝負するとよいでしょう。
例えば、「安くて美味しい」というコンセプトのもと、既にブランドが確立されているとします。この場合「安くて美味しい」というコンセプトでブランディングすることが困難なため、「地元食材だけを活用」「満足度の高い接客サービス」など、異なる視点からコンセプトを検討するのです。
ブランディングは長期目線で価値を高める
ブランディングは、顧客や消費者から選ばれるため、企業価値を高めるために必要な戦略のひとつです。企業価値が高まれば、人材確保にもつながるなど、社内におけるメリットも得られます。
ブランドとして確立するまでに時間はかかるものの、成功すれば長期的に利益をもたらすため、企業の土台作りとしてブランディングに取り組んでみてはいかがでしょうか。