消費者の行動がわかれば、より効果的なマーケティング戦略を打ち出すことができます。そんなとき、役に立つのが「マーケティング心理学」です。本記事では、マーケティングと心理学を組み合わせた「マーケティング心理学」と、実際に現場で活用されている心理テクニックを厳選して紹介します。
記事の後半では、具体的な実例も紹介していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
関連記事:マーケティング戦略の効果や立案手順について。効果的なフレームワークや成功事例も
消費者の行動を知ろう!マーケティング心理学とは?
「マーケティング心理学」とは、マーケティングに使われるさまざまな資料や手法に対し、消費者がどのような心理的反応を示すのかを研究した学問です。またその知見を応用し、マーケティングに活用するといった活動も含まれます。
関連記事:コトラーが提唱するマーケティング理論・概念とは?1.0~4.0の変遷
なぜマーケティングに心理学が重要なのか?
マーケティング心理学は、消費者の購買行動を理解し欲求や動機付けを把握するために、非常に重要です。心理学の知識をマーケティング戦略の立案に応用することで、より的確な消費者の心理的ニーズに応える製品やサービスを提供することが可能となります。効果的な広告や販促活動にも役立ち、消費者の意思決定にも影響を与えることが可能となるでしょう。
消費者心理学や行動心理学も
心理学にはさまざまな学問分野が存在しますが、ここではマーケティングにも関連している「消費者心理学」と「行動心理学」のふたつを簡単に紹介します。
消費者心理学とは、消費者の心理的な要因やプロセスを研究する学問です。購買行動に影響を与える要素、例えば欲求やニーズ、動機付け、意思決定プロセスなどを理解することを目的として、日々研究されています。
一方、行動心理学は、人々の行動を研究し、その背後にある心理的な要素や動機を明らかにする学問です。マーケティングにおいては、認知バイアスや行動のヒューリスティクス(人が何らかの意思決定をするときに、完璧な分析はせずに、簡略化した思考で判断しようとすること)といった心理的傾向を上手く活用し、それらを活かした広告や販促活動を展開するといったことに応用されています。
消費者心理学と行動心理学の知識を組み合わせることで、より効果的なマーケティング戦略を構築することが可能となります。
マーケティングで重要な心理テクニック10選
ここからは、マーケティング戦略において重要とされる心理テクニックを10個紹介します。実際にビジネスの現場でもよく使われるものなので、ぜひ覚えておきましょう。
ウィンザー効果
「ウィンザー効果」とは、当事者(例えば目の前の売り手)よりも第三者が与える評価のほうが信頼されやすい、という心理効果です。
セールスマンから、「私は嘘をつきませんので安心してください」、「この商品はかならずあなたの悩みを解決します!」と言われても、いまいち納得できないどころか、疑ってしまうといった経験はあるのではないでしょうか。
一方、第三者からの「あのセールスマンは誠実な人なので安心できる」や「この商品はほんとうに効果があった」といった評判を耳にすると、なぜか信じてしまいます。
返報性の原則
「返報性の原則」とは、他人から親切にしてもらったり、恩を受けたりすると、「お返ししなければ」と感じる心理のことです。
デパートなどの売り場コーナーで店員から試食を勧められたとき、「無償で食べた以上は買わないと……」という気持ちになって、最終的に購入してしまうといったケースは、この「返報性の原則」が大きく影響しています。
また行きつけの美容室などからときどき届くDMに、特別感のあるメッセージが添えられていると、「この気持ちに応えたい」といった心理が働くといった例もあります。
バーナム効果
「バーナム効果」とは、誰にでも当てはまるような内容でも「自分のことを本当に言い当てている」と感じる心理効果です。性格診断や運勢占いなどには、この効果が働いています。
少し極端ですが、「あなたは今悩んでいますね」というフレーズは、おそらくほとんどの人が当てはまるフレーズではないでしょうか。ですが、その言葉をかけられた人は「なぜ、わかったのだろう?」「当たっている!」と感じてしまい、通常よりも高く相手を評価してしまいます。
カリギュラ効果
「カリギュラ効果」とは、人がなにか行動を起こすとき、その物事を禁止すると逆にやりたくなってしまう心理現象です。
「ここから先は立ち入り禁止」や「絶対に見ないでください」など、行動や物事に制限をかけると、自由を奪われストレスを感じてしまいます。そのストレスへの反発や和らげたいという欲求から、禁止された事柄を破りなくなってしまうのです。
ほかには、期間や個数を「限定」することでも、カリギュラ効果が発生します。
アンカリング効果
「アンカリング効果」とは、認知バイアスのひとつで、最初にふれた情報がその後の意思決定などに影響し続け、その最初に得た情報に近い結論を出してしまうことです。
例えば、「通常価格より70%OFF」と表示された商品と、そのまま価格だけが表示された商品では前者のほうがお得に感じます。これは定価の7割引きという情報が強い影響力を持ち、その商品が「ほんとうに必要なものなのか?」や「割引後の値段は適正なのか?」といった判断力が薄くなってしまった状態ともいえます。
ザイオンス効果
「ザイオンス効果」とは、人や物に何度も繰り返し接することで、好感度や評価が高まる心理現象です。人や物以外にも音、味、香りなどに対しても起こり、「単純接触効果」とも呼ばれます。
今まで関心や興味がなかったことでも、何度も関連の情報に触れることで親近感を持つようになり、好感度が高まるというものです。身近な例としてわかりやすのが「広告」でしょう。テレビCMやネット広告で何度も同じものを見ることで、無意識に興味が湧いたり、ふとした拍子に思い出してしまうといった現象が起こります。
スノッブ効果
「スノッブ効果」とは、流行っているものには魅力を感じず、需要が減少し少数の人しか興味を示さなくなってしまったものほど魅力的に感じ、需要が増していくことです。
例えば、自分と同じ服を着ている人を街やテレビで見かける機会が増えると、どんなに気に入っていたとしてもその服を着る機会が減ってしまうという現象は、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。
松竹梅の法則
「松竹梅の法則」とは、1つのサービスや商品に対して3つのプランがあった場合、多くの人が真ん中を選んでしまう心理現象です。人は極端な選択より安定した選択を選んでしまいがちという傾向があります。
最安プランは価格に見合った安いサービスしか受けられないと感じ、反対に高いプランは適正価格かどうか疑ったり、価格以上の満足度を得られるか不安になってしまったりという心理が働きます。最終的に、リスクもリターンもちょうど良い中間プランを選んでしまうというわけです。
ディドロ効果
「ディドロ効果」とは、自分の生活環境に新しい商品が加わったとき、その商品に合った関連商品を揃えたくなるという心理効果です。人間の持つ、自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものにしたいという「一貫性の原理」によるものだといわれています。
人は、複雑性を持つ社会生活のなかで、できるだけ簡単に意思決定できるように、自らの行動や発言を一貫する傾向があります。ディドロ効果もそんな一貫性を保とうとする人の行動心理のうちのひとつです。
ヴェブレン効果
「ヴェブレン効果」とは高価なものほど買った人の満足度が上がりやすいという心理現象です。また、「高価な品物を見せびらかしたい」という自己顕示欲が需要増に繋がる現象も含まれ、「顕示的消費」「見せびらかし消費」といった呼ばれ方をすることもあります。
スノッブ効果は「他人と被っていたくない」「違うものが欲しい」という心理から需要が減ってゆく現象であり、安易に手に入る流行り物より、数少ない特別なものが欲しいという欲求とウェブレン効果を上手く組み合わせたマーケティング手法もよく見かけます。
心理学を活用したマーケティング具体例
ここでは、本記事で解説した心理学を活用したマーケティングの具体例を紹介します。多くの人が心当たりのあるものや、実際に経験のある事例を3つ用意しましたので、ぜひ参考にしてみてください。
ディドロ効果を活用した「大型家具店のセット展示」
インテリア家具店などでは、椅子やテーブルをバラ売りするだけでなく、実際の部屋のようにアレンジしたかたちで展示しています。一見すると、そのお店で売っている家具を購入した場合の部屋のイメージをわかりやすくするためのように思えますが、お客さんにはセットであることや、同じ家具で揃えたくなるという欲求を刺激する仕掛けになっています。
はじめての人に「お売りできません」と宣言してしまうCM
株式会社再春館製薬所の基礎化粧品「ドモホルンリンクル」のCMは「ドモホルンリンクルは、初めての方にはお売りできません」というフレーズが印象的です。使ってみたいという人をターゲットにしつつ、禁止や限定といったカリギュラ効果を上手く活用することで、無料お試しセットの申し込みに誘導しています。
さまざまな心理テクニックを使いこなすセールスのプロ
「老後の生活に不安を抱えてませんか?」や「身体の衰えを感じませんか?」といったセールストークは、商品やサービスのターゲット層に上手くフィットするようなキャッチーなものになっています。一見、何気ないひと言のように思えますが、刺さる人にとってはまるで自分のことを言われているように感じてしまいます。これは、バーナム効果を活用したセールスの基本テクニックです。
ここにTVCMや、ほどよい距離で何度も挨拶を交わすといったザイオンス効果、あえて無料お試し商品などを提供し、お返ししたいという欲求を起こさせる返報性の原則などを巧みに操り、契約へと結びつけるのがセールスマンです。
心理学は覚えておいて損はなし!
マーケティングと心理学は、ビジネスで成功するために不可欠な要素です。マーケティング戦略を立案する際には、本記事で紹介したような「心理学の基本」を上手く活用し、消費者の感情、ニーズに合わせたキャンペーンやメッセージングを展開することが求められます。自社の商品やサービス、ターゲットに合わせた販売方法を模索し、さまざまなマーケティング心理学を上手く使いこなしながら売り方を考えてみましょう。
また本記事で紹介した心理学はほんの一部に過ぎません。消費者心理学や行動経済学など、マーケティングにも関係する分野も日々研究されており、奥が深い世界です。本記事を参考に、ぜひ「マーケティング心理学」を自社のビジネスに役立てていきましょう。