成功事例は、多くの企業にとってマーケティング戦略の柱となるものです。しかし、他社の成功事例をそのまま自社に導入することにはリスクが伴います。成功事例を効果的に活用するためには、「具体」と「抽象」を行き来し、事例の本質を理解することが重要です。
本記事では、マーケティングにおいて具体と抽象の行き来がなぜ重要であるか、そしてそれをどのように実践できるかについて解説します。
具体と抽象の行き来とは?
本題に入る前に、まずは聞きなじみのない「具体と抽象の行き来」について触れていきます。マーケティングにおける「具体と抽象の行き来」とは、成功事例における特定の要素(具体)を抽象化し、自社のビジネスに応用できる汎用的な概念や戦略として再構築することです。具体的な行動や成果を単に模倣するのではなく、その背景にある本質的な要素を抽出し、自社に合った形で活用するアプローチです。この概念を理解できているかどうかは、成功事例をうまく活用するうえで非常に重要なので、しっかり落とし込むと良いでしょう。
ここで理解を深めるために簡単な事例をひとつあげてみます。理解の手助けになればうれしく思います。
「具体と抽象」について、じっくり本を読んで理解したいという方は細谷功さんの「具体⇄抽象」トレーニング」を読むことをおすすめいたします。
具体と抽象の行き来が重要な理由
なぜ具体と抽象の行き来が重要なのかここでは3つの視点から解説していきます。
他社の成功事例はあくまで「他社の条件」下での成功である
他社のマーケティング手法やキャンペーンが成功した背景には、その会社固有のリソースやターゲット市場の特徴が影響しています。自社の条件に合わない成功事例を単に模倣するだけでは、成果を再現できないことが多いです。他社で成功した具体的な事例を抽象化することではじめて、どの会社にとっても有効に働く抽象的な施策(の考え方)として一般化することができます。
抽象化によって本質を理解する
成功事例をそのまま取り入れて実行することは必ずしも悪いことではありませんが、抽象化することで初めてその施策の本質を理解できることが多いです。具体的な施策はあくまで施策の表面しか見えていないため、どのような意図を持って取り組んでいるのか理解できなければその効果は最大化できません。
さらに言えば自分たちの望んでいない方向に施策が効いてしまうこともあります。成功事例の中から「なぜその施策が効果的だったのか」「なぜこの施策が行われたのか」という要因を抽出し、抽象化することで、自社のビジネスに適用可能なヒントや戦略が見えてきます。
「抽象化→具体化」で応用が可能になる
抽象化を通じて得た本質的な要素があれば、自社に合った具体的な戦略や施策を立てることができます。抽象化した本質的な要素があれば、事例の「模倣」ではなく「応用」による成果が期待できます。自社特有の事例に当てはめたり、特定の条件下で最大効果が出せる施策を出せるなど、「抽象化と具体化の行き来」はマーケティング施策の実行において非常に重要になります。
具体と抽象の行き来を実践するための3つのSTEP
ここからは具体と抽象の行き来ができるようになるための実践方法を簡単に紹介していきます。
ステップ1:成功事例を分解して要素を抽出する
成功事例をただ読んで表面的に理解するだけで終わらせるのではなく、なぜその施策が効果的だったのかを深く掘り下げます。具体的な方法として、以下の要素を詳細にリストアップすると良いでしょう。
- ターゲットの特性:事例が対象としたターゲット層の特徴や、マーケティング活動がどのようにターゲットに響いたのかを分析します。たとえば「若年層」だけでなく、「アクティブで自己表現欲が強い若年層」など、より具体的に特性を把握します。
- メッセージの伝え方:どのようなメッセージやトーンが使われ、どのようなチャネルで発信されたかを確認します。ここで注目するのは単なる言葉の選び方ではなく、メッセージがどのように「感情に訴える」要素を持っているかです。例えば、「購買意欲を喚起する」よりも、「この製品を使うことで生活がどう変わるか」をイメージさせる表現などです。
- リソースの活用方法:成功事例で活用されたリソース(人材、予算、時間、技術など)についても検討します。たとえば、SNSでのキャンペーン事例であれば、インフルエンサーの起用が決め手だったのか、あるいはリッチコンテンツ(動画やライブ配信)に力を入れたのかといった点を掘り下げます。
- 施策のタイミングや環境:キャンペーンや施策が行われた時期、競合他社の動向、消費者の購買意欲が高まるシーズンであったかどうかなど、外部要因も含めて考察します。このように分解して各要素を整理することで、成功事例が自社の環境や市場にどの程度当てはまるかを判断する材料が揃います。
ステップ2:抽象化して自社の課題と照らし合わせる
リストアップした要素から、成功に寄与した要因を抽象化し、自社の課題に応用できるかを検討します。このプロセスでは、「何をしたか」だけでなく「なぜそれが効果的だったのか」を考え抜き、その背後にある普遍的な原理や顧客心理を見つけ出すことが鍵です。
- 顧客心理への理解:たとえば、割引を提供するキャンペーンの事例があったとして、その背景に「顧客が得られる特別感」や「今しか手に入らない緊急性」が含まれていたとします。これを抽象化すると、「特別な価値を提供することで、顧客の購買意欲を高める」という心理が浮かび上がります。この原理を理解することで、自社でも割引以外の方法で特別感を提供する方法を考えることが可能になります。
- 価値提供の視点:同じメッセージやキャンペーンを模倣するのではなく、「どのようなメッセージが自社のターゲット層に響くのか」「なぜ顧客がそのメッセージに共感するのか」を分析します。たとえば、実際にターゲットが抱える悩みや欲求に直結するメッセージを提供することで、事例と異なるアプローチでも顧客の心を掴むことが可能です。
- 自社の強みやリソースを生かすには?:事例で使用されたリソースや戦術が自社で再現できない場合も多いため、リソースや技術に応じて実行可能な形で再構築します。たとえば、高額な広告が予算的に難しい場合でも、SNSを活用した無料のキャンペーンや、リッチメディアが制作できない場合にはテキストと画像を駆使するなどの方法で、同様の心理効果を得ることができる施策に変換します。
ステップ3:具体的な施策を再構築する
抽象化して得られた本質的な要素をもとに、自社の状況に合わせて実行可能な施策に再構築します。この際、以下のポイントに留意すると、事例の単なる模倣にとどまらず、独自の施策を打ち出せるようになります。
- タイミングと市場環境に合わせたカスタマイズ:たとえば、消費者の購買意欲が高まる季節や、競合が静観しているタイミングに合わせて実施することで効果を最大化します。事例の成功時期や市場のトレンドも検討し、現在の環境に合わせたアプローチを考えます。
- メッセージのローカライズ:抽象化したメッセージを自社のターゲット層に合わせて再構築します。たとえば、グローバル市場向けの事例を参考にする場合、そのメッセージがターゲット層に響くよう、文化的な要素を取り入れて「自社らしさ」を付加します。これにより、オリジナルの事例以上にターゲットの共感を得やすくなります。
- リソースに応じた実行可能性の検討:事例の施策が大規模なリソースを必要とする場合、自社のリソースに合わせて縮小版やアレンジ版で実施できないか検討します。たとえば、インフルエンサー施策が難しい場合、既存の顧客やファンとの協力によって口コミキャンペーンに転換するなど、現実的に実施可能な形に再構築します。
- 効果測定とフィードバックの仕組み作り:再構築した施策が実施された後、効果を測定し、フィードバックを得て施策を改善していくサイクルを作ります。成功事例と自社での実施結果を比較し、どの要素が自社での成功に寄与したのかを分析することで、再現性のあるノウハウを積み上げることができます。
「具体と抽象の行き来」はマーケティングのどこで活用できる?
「具体と抽象の行き来」が重要であるという話をすると、よく「具体的にどんなところで活用できるのか?」という質問を受ける事があります。答えとしてはどんなシーンでも使えるとなってしまいます。
例えばショート動画のバズを分析して抽象化し、自社のショート動画作りに役立てるなどもその一例です。「抽象と抽象の行き来」を繰り返すことで精度を高め、ショート動画制作で数十万再生の動画を作成することにも直近成功しています。
もちろん他にも沢山活用できるところはあります。もし気になるという方がいましたら、お問い合わせいただければ幸いです。
まとめ:「具体と抽象の行き来」はマーケティングにおいて必須
本記事ではマーケティングで必須である「具体と抽象の行き来」について触れてみました。マーケティングの記事で扱われることはあまり多くはないですが、マーケ施策の立案・実行においては必ず役立つ考え方なので、ぜひこの機会に落とし込んでみてください。